矯正の副作用 · ブラックトライアングル
矯正後のブラックトライアングル、
なぜできて、どう減らせますか?
実際の症例 · 歯の形からブラックトライアングルの可能性が高かった上の前歯 · マウスピース矯正+レジンでの仕上げ



上の中央の前歯が根元側(歯ぐきに近い側)が細く、先端が広い三角形に近く、矯正前からブラックトライアングル(歯と歯の間の三角のすき間)の可能性が高いと考えられた症例です。マウスピース矯正ですき間を閉じて並びを整えたあと、仕上げの段階で中央の前歯の間にレジン(ダイレクトボンディング)を足して、歯ぐき側の空いたスペースを小さくしました。結果には個人差があります。
このページの内容
結論から申し上げると、ブラックトライアングルは矯正が歯ぐきを傷めてできるものではなく、重なっていた歯が並ぶことで、隠れていたスペースが見えるようになる場合がほとんどです。歯の形と、歯を支える骨(歯槽骨)の高さから、矯正の前にある程度予測でき、歯の間を削る処置(IPR)と歯の根の角度の調整で大きさを小さくできます。矯正のあとにも残る場合は、レジンやラミネートベニアで埋めます。
ブラックトライアングルとは?
前歯の間、歯ぐきのすぐ上に見える三角形の黒いすき間を、ブラックトライアングル(black triangle)といいます。歯科では「開いた歯肉側鼓形空隙(open gingival embrasure)」と呼びます。
2本の歯が触れ合う点(接触点)の下にはもともと三角形のスペースがあり、健康な状態では、このスペースを歯間乳頭というとがった歯ぐきが埋めています。この歯ぐきがスペースを最後まで埋めきれないと、口の中の暗い部分が透けて、黒い三角形に見えます。
矯正のせいで歯ぐきが傷んだのですか?
いちばん多い誤解です。ほとんどの場合、そうではありません。
歯が重なっていたり、ねじれていたりするときは、歯どうしが重なり合って、歯ぐき側の三角形のスペースを隠しています。矯正で歯がきれいに並ぶと、もともとあったスペースが見えるようになるのです。歯ぐきが新たに下がってできるものとは違います。
ただし、めずらしいことではありません。固定式の装置による矯正のあとの発生率は、研究によって38〜58%と報告されています。[2] 成人を分析したある研究では38%でした。[3] マウスピース矯正も同じで、成人を分析した2025年の研究では、部位単位で見た発生率は上の前歯13.4%、下の前歯30.7%で、下の中央の前歯の間でもっとも多く(39%)見られました。[4] 装置の種類よりも、歯と歯ぐきの条件のほうが重要だということです。
スケーリング(歯石除去)のあとに「なかったすき間ができた」と感じるのも、同じ理由です。歯石と炎症で腫れていた歯ぐきが引き締まり、隠れていたスペースが見えるようになるのです。これを理由にスケーリングを先延ばしにすると、炎症が続いて歯を支える骨がさらに吸収され、結局はより大きなすき間になって返ってきます。
なぜできるのですか? — 5つの原因
- ① 歯の形 — 歯の根元側が細く、先端が広い三角形の歯は、接触点が歯の先端(切縁)側にあるため、歯ぐき側の空いたスペースが大きくなります。ブラックトライアングルができた部位は、歯の形がより開いた三角形で、接触点が短く、先端側にありました。[3] 下の前歯が代表的な三角形の歯です。
- ② 歯を支える骨の高さ — 接触点から歯を支える骨までの距離が遠いほど、できやすくなります。矯正後にこの距離が5.5mmを超えると、ブラックトライアングルとはっきり関連していました。[3] 歯周病で骨が下がっている方は、スペースが大きくなります。
- ③ 歯の根の角度 — 隣り合う2本の歯の根がたがいに開いていると、歯の頭の部分がV字に傾き、歯ぐき側のスペースが広くなります。根が1°多く開くごとに、ブラックトライアングルの可能性が14〜21%ずつ高くなるという報告があります。[5]
- ④ 年齢 — 年齢を重ねるほど歯ぐきと歯を支える骨が少しずつ下がり、リスクが上がります。マウスピース矯正の研究でも、年齢は独立したリスク因子でした。[4]
- ⑤ 歯の重なり(でこぼこ)と歯ぐきの状態 — 大きく重なっていた歯でスペースが見えるようになることが多く、歯ぐきが薄かったり炎症があったりすると、より目立ちます。ただし研究では、重なりの程度そのものよりも、歯の形と歯を支える骨の高さの影響のほうがはっきりしていました。[3]
まとめると、ブラックトライアングルは歯の形 + 歯を支える骨の高さ + 歯の根の角度がつくる結果で、年齢と歯ぐきの状態がその大きさに上乗せされます。
矯正の前に可能性は分かりますか?
完全にではありませんが、かなり予測できます。矯正前の検査で、次の点を確認します。
- 歯の形 — 根元側が細い三角形の歯かどうか、接触点がどのあたりにあるか
- 重なりの程度 — 大きく重なっているほど、並んだときに見えてくるスペースが大きくなります
- 歯を支える骨の高さ — レントゲン写真で、歯を支える骨が下がっていないかを確認します
- 歯ぐきの厚みと炎症 — 薄い歯ぐき、炎症のある歯ぐきは、先にケアします
- すでにあるすき間 — 矯正前から前歯の間にすき間がある場合、矯正後も歯ぐき側が空いて見えることがあります
矯正中に減らす方法
① 歯の間を削る処置(IPR) — 接触面を広げてすき間を減らします
歯の側面をごく薄く整えて、点で触れていた接触を面に広げる方法です。三角形の歯のふくらんだ側面を整えてから歯を寄せると、接触する部分が広がりながら歯ぐき側に下がり、その分、歯ぐきが埋めなければならないスペースが小さくなります。[5]
- 1面あたり0.2〜0.3mm程度を、複数の歯に分けて整えます。歯の側面のエナメル質は1mm前後あるため、大部分はそのまま残ります
- 削る量と安全性は、歯の間を削る処置(IPR)のページに詳しくまとめています
- マウスピース矯正(インビザライン)では、クリンチェックでどの歯の間をどれだけ整えるかをあらかじめ設計できるため、ブラックトライアングルの可能性が高い部位に計画的に配分します

② 歯の根の角度をそろえる
根が開いたまま歯の頭の部分だけを寄せると、V字のすき間が残ります。隣り合う歯の根を平行に立てると、接触点が歯ぐき側に下がり、スペースが小さくなります。[5] 矯正の仕上げの段階で、レントゲン写真で根の角度を確認する理由のひとつです。
③ 歯ぐきの炎症を先に落ち着かせる
炎症がある状態で歯を動かすと、歯を支える骨がさらに下がることがあります。矯正前と矯正中のスケーリングで炎症を管理することが、結局はブラックトライアングルを小さくする基本です。
すでにできてしまったら — 大きさ別の治療
診療室では、大きさによっておおよそ次のように分けています。
- 小さなすき間(おおよそ3mm以下) — 矯正中であれば、IPRで接触面を広げて、ほとんどの場合小さくできます。矯正が終わっていて、あまり目立たない程度であれば、そのままにして経過を見ることもあります
- 大きなすき間(4mm以上) — IPRだけでは難しくなります。歯の側面に材料を足して、歯の歯ぐき側の幅を広げるレジンや、無削除・最小限の削合のラミネートベニアで埋めます
実際の症例 · 下の前歯のブラックトライアングル · マウスピース矯正のあとにレジンで補った症例



下の前歯はもともと三角形に近い形で、ブラックトライアングルができやすい場所です。マウスピース矯正ですき間を閉じて並びを整えると、下の前歯の間の歯ぐき側に黒い三角形が現れ、これを歯を削らずにレジンを足して埋めました。結果には個人差があります。
このページのいちばん上の、上の前歯の症例も、矯正を仕上げる際に中央の前歯の間にレジンを足して、残ったスペースを小さくした例です。
レジンとラミネートベニア、どう選びますか?
| レジン | ラミネートベニア | |
|---|---|---|
| 方法 | 歯の側面にレジンを直接足して形をつくる | 薄いセラミックを製作して貼りつける |
| 歯を削る量 | ほとんどの場合、削らない | 無削除または最小限の削合 |
| 向いている場合 | すき間だけ埋めればよい場合、下の前歯のように小さな歯 | すき間とあわせて歯の色・形・長さまで変えたい場合 |
| 持ち | 5年生存率84.6%[6]、最長10年の追跡で88.3%[7] · 変色や欠けで補修が必要になることがある | 平均10.4年の追跡で、主なセラミックの生存率は約94〜97%[8] |
レジンは歯をほとんど削らず、その日のうちに終えられる保存的な方法です。そのかわり、時間がたつと変色したり、角が欠けたりすることがあり、補修が必要になる場合があります。また、コーヒーやお茶のように色の濃い飲み物をよく飲むことは、変色と関連していました。[7] すき間を埋めながら歯の色と形まで変えたい場合は、無削除または最小限の削合のベニアが向いています。どんな歯が無削除に向いているかは、無削除か、最小限の削合か — ラミネートベニア ガイドでご説明しています。
できたあとのケア
- デンタルフロス・歯間ブラシ — すき間があると、食べ物がはさまりやすくなります。すき間の大きさに合った歯間ブラシを使うと、歯ぐきの炎症を防ぎやすくなります
- 定期的なスケーリング — スケーリングのあとにすき間が大きく見えるのは、腫れが引いたためで、スケーリングが歯ぐきを傷めたわけではありません。炎症を放っておくと、すき間はさらに大きくなります
- 保定装置(リテーナー) — 矯正後に歯の間がふたたび開くと、すき間も一緒に大きくなります。保定装置の管理は、ブラックトライアングルの管理でもあります
まとめ
- ブラックトライアングルはほとんどの場合、矯正で歯ぐきが傷んだからではなく、隠れていたスペースが見えるようになったものです
- 矯正後の発生率は38〜58%とよく見られ、歯の形・歯を支える骨の高さ・歯の根の角度・年齢で決まります
- 矯正前の検査で可能性をあらかじめ知ることができ、IPRと歯の根の角度の調整で大きさを小さくします
- 残った場合、小さなすき間は経過を見るかIPR、大きなすき間はレジンまたは無削除・最小限の削合のラミネートベニアで埋めます
- 可能性が高い場合ほど、矯正の前に矯正歯科専門医にあらかじめ確認してもらうことが、予防のうえでとても大切です
参考文献
- Tarnow DP, Magner AW, Fletcher P. The effect of the distance from the contact point to the crest of bone on the presence or absence of the interproximal dental papilla. J Periodontol. 1992;63(12):995-996.(288か所;5mm以下でほぼ100%、6mmで56%、7mm以上で27%以下)
- Zafar K, et al. Incidence of gingival black triangles following treatment with fixed orthodontic appliance: a systematic review. Healthcare (Basel). 2022;10(8):1373.(5編を分析、発生率38〜58%;リスク因子は研究間の異質性が大きく、合意に至っていない)
- Kurth JR, Kokich VG. Open gingival embrasures after orthodontic treatment in adults: prevalence and etiology. Am J Orthod Dentofacial Orthop. 2001;120(2):116-123.(成人337人、発生率38%;歯槽骨–接触点の距離が5.5mm超、歯根の角度、三角形の歯冠、短く切縁側にある接触点と関連;治療前の重なり・回転は有意ではない)
- Cui, Liu, Zhao, Lei, Li. Risk factors for open gingival embrasures after clear aligners treatment: a retrospective study. BMC Oral Health. 2025.(成人82人;部位単位で上13.4%、下30.7%、下の中央の前歯39.02%;年齢、接触点–歯槽骨の距離がリスク因子)
- Pugliese F, Hess R, Palomo L. Black triangles: preventing their occurrence, managing them when prevention is not practical. Semin Orthod. 2019;25(2):175-186.(歯根の開きが1°増えるごとにリスクが14〜21%増加;IPR・接触点の移動・接着修復)
- Frese C, Schiller P, Staehle HJ, Wolff D. Recontouring teeth and closing diastemas with direct composite buildups: a 5-year follow-up. J Dent. 2013;41(11):979-985.(176個の修復物、5年生存率84.6%)
- Lempel E, Lovász BV, Meszarics R, et al. Direct resin composite restorations for fractured maxillary teeth and diastema closure: a 7 years retrospective evaluation of survival and influencing factors. Dent Mater. 2017;33(4):467-476.(163個の修復物、最長10年の生存率88.34%、年間失敗率1.43%;飲み物の摂取と変色が関連)
- Klein K, et al. Survival and complication rates of feldspathic, leucite-reinforced, lithium disilicate and zirconia ceramic laminate veneers: a systematic review and meta-analysis. J Esthet Restor Dent. 2025. doi:10.1111/jerd.13351.(29編、平均追跡10.4年)
このページは一般的な情報であり、個別の診断に代わるものではありません。治療の適否・期間・回数は、検査のうえで一人ひとりの状態に合わせてご案内します。