矯正 · 歯の間を削る処置(IPR)
歯の間を削る処置(IPR)、
歯を削っても大丈夫?
このページの内容
結論からお伝えすると、歯の間を削る処置(IPR)は、歯の側面のエナメル質を1面あたり0.2〜0.3mm程度、ごく薄く整えるもので、決められた範囲内で適切に行えば、10年以上追跡した研究でもむし歯・歯ぐきの問題・しみる症状が増えなかった、安全な処置です。ほとんどの場合は麻酔なしで行い、感覚は「締めつけられる、または少ししみる程度」です。大切なのは、どれだけ削るかよりも、歯ごとにエナメル質の厚みを考えて、どの歯に、どれだけずつ分けて、どう仕上げるかです。
実際の症例 · 上の前歯の重なり(でこぼこ) · IPRだけでスペースをつくった前歯の部分矯正(MTA装置・ミニチューブ) + 中央の前歯に最小限の削合によるラミネートベニア


上の2番目の前歯(側切歯)が中央の前歯の後ろに入り込んで重なっていた症例です。抜歯をせず、IPRだけでスペースをつくり、前歯数本だけにつける小さな装置(MTA装置〈ミニチューブ〉:韓国でよく使われる、部分矯正用の小さなチューブ型の固定式装置)で部分矯正を行い、きれいに並べました。中央の前歯2本は斑点があったため、矯正後に最小限の削合によるラミネートベニアで仕上げました。矯正期間は7か月。結果には個人差があります。
歯の間を削る処置(IPR)とは?
歯の間を削る処置(IPR:interproximal reduction。ディスキングとも呼ばれます)は、歯と歯が接している側面をごく薄く整えることです。歯のいちばん外側の層であるエナメル質だけを整え、神経のある内側までは入りません。
- 1面あたり0.2〜0.3mm程度を、複数の歯に分けて整えます
- 1か所で大きな量を削ることはせず、複数の歯から少しずつ集めて必要なスペースをつくります
- 整えたあとに歯を寄せると、歯どうしが接する面が広くなり、歯の形も少し整います
実際、IPRを行ったあとに患者さんにお見せしても、どこを整えたのか分からないとおっしゃることが多くあります。
痛くありませんか?
ほとんどの場合、麻酔なしで行います。神経のない、エナメル質の外側の層だけを整えるためです。感覚としては、歯の間がきつく締めつけられる、少ししみる、振動を感じるといった程度です。
2025年のランダム化比較試験でも、IPR中の痛みは軽い不快感の程度で、手で行っても機械で行っても差はありませんでした。[1]
もともとしみる症状がある方は、あらかじめお知らせください。量をさらに分けて行ったり、仕上げの工程を調整したりします。
どのくらい削り、どのくらい残りますか?
安全性のポイントは、もともと側面のエナメル質がどのくらい厚いかです。
複数の研究をまとめたメタ分析では、側面のエナメル質は小臼歯・大臼歯が厚く、下の前歯がもっとも薄く、奥側の面(遠心面)が手前側の面(近心面)より平均0.10mm厚いという結果でした。[2] CBCTで測った研究では、近心面0.96〜1.29mm、遠心面0.98〜1.25mmでした。[3] つまり側面のエナメル質は、おおむね1mm前後です。
エナメル質の厚みの半分まで
1998年に発表されて以来、長く引用されてきた研究では、側面のエナメル質の厚みの約50%を整えることを基準に、歯の間で得られるスペースを計算しました。[4] 側面のエナメル質は1mm前後ですので、1面あたり0.5mm以内の範囲で、矯正歯科専門医がレントゲン写真で歯ごとの厚みを確認しながら量を調整できます。
厚い歯から、より多くのスペースを
同じ基準でも、エナメル質が厚い歯ほど、より多く整えることができます。小臼歯・大臼歯、特にその奥側の面はエナメル質が厚く、スペースを得やすい場所です。[2][4] そのため、多くのスペースが必要なときは、薄い下の前歯に集中させず、厚い歯により多く配分します。
どのくらいスペースができますか?
たとえば、片側の第二小臼歯から反対側の第二小臼歯まで、歯の間9か所を1か所あたり0.5mmずつ(両側の歯の面を0.25mmずつ)整えると、片顎で約4〜5mmのスペースができます。下の前歯1本分の大きさに近いスペースです。
片顎で足りないスペースが4〜5mm以内の軽い歯の重なり(でこぼこ)は、この程度のスペースで抜歯をせずに並べられることが多くあります。さらに多くのスペースが必要な場合は、歯列の拡大や、奥歯を後ろに動かす方法をあわせて計画し、それでも足りないときに抜歯を検討します。
どのように行いますか?


- どのくらい必要かを計画 — 模型やデジタルスキャンで必要なスペースを計算し、歯ごとに配分します
- 整える — 薄い研磨ストリップを歯の間に入れて手で整えるか、コントラアングルに取りつけたストリップで整えます
- 幅の確認 — ゲージで、整えたすき間の幅を確認します
- 仕上げ — 表面をなめらかに研磨し、フッ素を塗って仕上げます
マウスピース矯正(インビザライン)では、クリンチェックでどの歯の間を、どれだけ、何枚目のマウスピースで整えるかをあらかじめ設計します。一度にすべて行うのではなく、歯が動く順番に合わせて分けて行うことが多くあります。
むし歯・歯ぐき・しみる症状は大丈夫ですか?
結論として、問題はありません。決められた範囲内で整え、なめらかに研磨して仕上げれば、数年から10年以上追跡した研究で、むし歯・歯ぐきの問題・しみる症状は増えていませんでした。
- むし歯 — 整えた面と整えていない面で、むし歯の発生に差はありませんでした。[6][7][8]
- 歯ぐき・歯を支える骨(歯槽骨) — 10年以上たっても、歯ぐきの問題や歯を支える骨の減少は増えていませんでした。[6]
- しみる症状 — 長く残るしみる症状はほとんどありませんでした。[6][7][9] 処置の直後、1〜2日ほど少ししみることはあります。
整えたあとは研磨し、フッ素を塗って仕上げます。その後は、デンタルフロスで歯の間をお手入れしていただければ大丈夫です。
どんな場合に行いますか?
- 抜歯をせずにスペースをつくる — 軽い歯の重なり(でこぼこ)は、IPRでつくったスペースで並べることができます。前歯の部分矯正や再矯正で特によく行います
- ブラックトライアングル(歯と歯の間の三角のすき間)を小さくする — 三角形の歯の側面を整えて寄せると、歯どうしが接する面が歯ぐき側に広がり、黒いすき間が小さくなります。詳しくはブラックトライアングルのページにまとめています
- 上下の歯の大きさの比率を合わせる — 上下の歯の大きさの比率が合っていないと、すき間を閉じても噛み合わせが不自然になります。このとき、大きいほうの歯を少し整えて比率を合わせます。すきっ歯の治療のページでも取り上げています
- 歯の形を整える — 横に広い歯や、形が不ぞろいな歯の輪郭を少し整えます
行わないほうがよい場合
- むし歯ができやすい場合や、歯みがきの管理が難しい場合 — まずはお手入れの習慣とむし歯の治療が優先です
- エナメル質が薄い場合や、歯が小さい場合 — 整えられる量が少ないため、別の方法でスペースをつくります
- もともとしみる症状が強い場合 — まず原因を確認します
- 必要なスペースが大きすぎる場合 — IPRだけで無理につくるよりも、抜歯、拡大、奥歯を後ろに動かすといった別の方法をあわせて検討します
まとめ
- IPRは、歯の側面のエナメル質を1面あたり0.2〜0.3mm整えるもので、側面のエナメル質は1mm前後あるため、大部分は残ります
- 長く引用されてきた研究の基準はエナメル質の厚みの半分で、1面あたり0.5mm以内で矯正歯科専門医がレントゲン写真を見ながら調整し、厚い歯(小臼歯・大臼歯)から、より多くのスペースを得ることができます
- ほとんどの場合麻酔なしで行い、感覚は締めつけられる、または少ししみる程度です
- 小臼歯まで、歯の間ごとに0.5mmずつ整えると、片顎で約4〜5mm、下の前歯1本分の大きさに近いスペースができ、軽い歯の重なり(でこぼこ)は抜歯をせずに並べられることが多くあります
- むし歯・歯ぐきの問題・しみる症状は、長期の研究で増えていませんでした
- スペースをつくること、ブラックトライアングルを小さくすること、大きさの比率を合わせることに使います
- ポイントは歯ごとの厚みを考えて、分けて計画することですので、矯正歯科専門医にご相談いただくのがよいと思います
参考文献
- Sudarshan, Sherriff, O'Rourke, Minhas. Difference in pain experience between manual and motor-driven methods of interproximal enamel reduction: a single centre randomized controlled trial. Eur J Orthod. 2025;47(6):cjaf074.
- Kailasam V, Rangarajan H, Easwaran HN, Muthu MS. Proximal enamel thickness of the permanent teeth: a systematic review and meta-analysis. Am J Orthod Dentofacial Orthop. 2021;160(6):793-804.e3.
- González-García E, Balut-Chahin N, Rojo-Arce CD, et al. Assessing enamel thickness to estimate interproximal reduction: a CBCT-based study. Clin Exp Dent Res. 2025;11(1):e70083.
- Stroud JL, English J, Buschang PH. Enamel thickness of the posterior dentition: its implications for nonextraction treatment. Angle Orthod. 1998;68(2):141-146.(エナメル質の50%を削ると仮定して、得られるスペースを計算)
- Hall NE, Lindauer SJ, Tüfekçi E, Shroff B. Predictors of variation in mandibular incisor enamel thickness. J Am Dent Assoc. 2007;138(6):809-815.
- Zachrisson BU, Nyøygaard L, Mobarak K. Dental health assessed more than 10 years after interproximal enamel reduction of mandibular anterior teeth. Am J Orthod Dentofacial Orthop. 2007;131(2):162-169.
- Zachrisson BU, Minster L, Ogaard B, Birkhed D. Dental health assessed after interproximal enamel reduction: caries risk in posterior teeth. Am J Orthod Dentofacial Orthop. 2011;139(1):90-98.
- Koretsi V, Chatzigianni A, Sidiropoulou S. Enamel roughness and incidence of caries after interproximal enamel reduction: a systematic review. Orthod Craniofac Res. 2014;17(1):1-13.
- Gómez-Aguirre JN, Argueta-Figueroa L, Castro-Gutiérrez MEM, Torres-Rosas R. Effects of interproximal enamel reduction techniques used for orthodontics: a systematic review. Orthod Craniofac Res. 2022;25(3):304-319.
このページは一般的な情報であり、個別の診断に代わるものではありません。治療の適否・期間・回数は、検査のうえで一人ひとりの状態に合わせてご案内します。