部分矯正 · 八重歯
八重歯の矯正、
歯を抜かないといけませんか?
実際の症例 · 上の八重歯 · 抜歯をせずに部分矯正(MTA装置)、そのあと中央の前歯に最小限の削合によるラミネートベニア


矯正をするには抜歯が必要だと言われ、ラミネートベニアを検討しに来られた方です。笑ったときの前歯の中心線が整い、八重歯のないそろった笑顔になりました。八重歯をそのままにしてラミネートベニアで並びを整えると、削る量が大きくなる状態だったため、抜歯をせず、歯の間を削る処置(IPR)でスペースをつくって部分矯正を先に行いました。矯正後、中央の前歯の斑点は最小限の削合によるラミネートベニアで仕上げました。矯正期間は7か月。結果には個人差があります。詳しい経過は症例1にまとめています。
このページの内容
「ほかの歯科で、矯正するなら歯を抜かないといけないと言われたので、ラミネートベニアで隠そうと思って来ました。」
「八重歯だけ整えたいのですが、歯を抜かなくてもできますか?」
結論から申し上げると、八重歯を抜歯せずに並べられるかどうかは、足りないスペースがどのくらいあるか、そして口元をもっと下げる必要があるかで決まります。抜歯をしないこと自体が目的ではありません。足りないスペースが大きくなく、口元が出ていなければ、IPRや奥歯の後方移動で抜歯をせずに並べることが多く、スペースが大きく不足していて口元も出ているなら、抜歯のほうがよい場合があります。八重歯を並べないままラミネートベニアだけで隠すと、歯の位置と目標とする形によっては削る量が増える可能性が高いため、まず歯並びを整える方法から検討します。
ひと目でわかる — 八重歯の矯正と抜歯
| 結論 | 抜歯をせずに並べられるかどうかは、足りないスペースの量と口元をもっと下げる必要があるかで決めます。 |
|---|---|
| 八重歯ができる理由 | 犬歯が生えてくる場所が足りず、外側・上側に押し出されたものです。 |
| スペースのつくり方 | 歯の間を削る処置(IPR)、奥歯を後ろへ動かす方法(後方移動)、歯列を広げる方法(拡大)。足りない量に合わせて組み合わせます。 |
| 非抜歯の限界 | 後方移動は後ろ側の骨が終わるところまで、拡大は上あごが狭い場合に、歯を支える骨の中でだけできます。 |
| 抜歯のほうがよい場合 | 必要なスペースがこの限界より大きく、口元も出ているときです。 |
| 抜歯と笑顔 | 抜歯そのものが笑顔をよくしたり悪くしたりすることはありません。口元が出ていなければ、非抜歯でも十分です。 |
| ラミネートベニアで隠すと | 歯の位置と目標とする形によっては、削る量が増える可能性が高くなります。先に歯並びを整えれば、ラミネートベニアが不要になるか、削る量を少なくできます。 |
| 装置 | 歯の色のMTA装置(ミニチューブ)やマウスピース矯正のように、目立ちにくい装置でも進められます。 |
| 日本から通う場合 | 来院は通常2〜3か月ごとです。来院の間に気になることがあれば、写真をLINEで送ってご相談いただけます。 |
本文の各項目の要約です。数値は文献上の平均値で個人差があり、出典は本文に記載しています。
八重歯はなぜできるのですか?
犬歯が生えてくる場所が足りないためにできます。上あごの犬歯は、前歯や小臼歯より遅れて生えてくる傾向があります。その間に前歯と小臼歯が先に場所を占めてしまうと、最後に生えてくる犬歯は入る場所がなく、外側や上側に押し出されます。これが一般に八重歯と呼ばれるものです。
ですから八重歯は、犬歯1本の問題というより、歯列全体のスペース不足です。治療も「犬歯をどう入れるか」より、「足りないスペースをどこで、どれだけつくるか」から始まります。2番目の前歯(側切歯)が内側に入っていたり、前歯が重なっていたりする場合も、同じスペース不足から一緒に起きていることが多くあります。
抜歯をせずにスペースをつくる方法は?
抜歯をしない場合にスペースをつくる方法は、大きく3つあります。足りない量によって1つだけ使うこともあれば、組み合わせることもあります。
- 歯の間を削る処置(IPR) — 歯と歯の間のエナメル質を1面あたり0.2〜0.3mm程度、ごく薄く整えてスペースをつくります。複数の歯に分けて行うと、前歯の部分で数mmのスペースができます。詳しい範囲と安全性は「歯の間を削る処置(IPR)、歯を削っても大丈夫?」でご説明しています。
- 奥歯を後ろへ動かす方法(後方移動) — 奥歯を後ろに動かして、前側にスペースをつくります。このときは矯正用アンカースクリュー(ミニスクリュー:矯正用の小さなねじ)を一緒に使います。アンカースクリューは韓国に来院されたときに入れ、矯正が終わったら来院時に外します。移動量と限界は奥歯の後方移動のページでご説明しています。
- 歯列を広げる方法(拡大) — 狭い歯列を横に広げて、スペースをつくります。ただし上あごの幅が下あごに比べて狭い場合にだけ使え、歯を支える骨(歯槽骨)の中でだけ広げられます。
抜歯が必要なのはどんな場合ですか?
抜歯をせずにつくれるスペースには限界があります。必要なスペースがそれより大きく、口元も出ている場合に、抜歯を検討します。
- 後方移動の限界 — 奥歯は、後ろ側の骨が終わるところ(上あごは一番奥の歯の後ろにある骨のふくらみ〈上顎結節〉、下あごは内側の骨の壁)までしか動かせないため、動かせる量は人によって決まっています。
- 拡大の限界 — 上あごが下あごより狭い場合にだけ、歯を支える骨の中でだけ広げられます。
この範囲を超えるスペースを非抜歯で無理につくると、前歯が前に押し出されて、口元がさらに出てしまうことがあります。そのため、足りないスペースと口元をあわせて見て、次のように分けます。
- スペース不足が小さく、口元に問題がなければ — IPRを中心に、非抜歯で並べる方法をまず検討します。
- スペース不足は大きいものの、口元に問題がなければ — 奥歯の後方移動を併用する非抜歯と、抜歯の両方を並べて比べます。
- スペース不足が大きく、口元も出ていれば — 抜歯して前歯を後ろに下げるほうがよい場合があります。
つまり同じ八重歯でも、口元によって結論が変わります。口元と抜歯の基準は「口ゴボの矯正、抜歯は必要ですか?」で詳しく取り上げています。
抜歯をすると、笑顔や口元はよくなりますか?非抜歯ではだめですか?
抜歯そのものが笑顔をよくしたり悪くしたりすることはありません。口元は、もともと口が出ていた方なら抜歯でさらに下がることがあり、口が出ていなければ非抜歯でも十分です。
- 笑顔 — 小臼歯を4本抜いた矯正と抜かなかった矯正を比べたところ、抜歯をしたかどうかと笑顔の美しさの間に、予測できる関係はありませんでした。[1] 笑顔を左右するのは、抜歯をしたかどうかより、歯の並び、前歯の中心線、前歯が見える量、歯列の幅です。笑ったときに口角の横に見える暗いスペース(バッカルコリドー)が小さい笑顔のほうが好まれたという結果もあるため[2]、上あごが狭い場合は診断の際にあわせて確認します。
- 口元 — 抜歯をした矯正では、非抜歯より下唇が1.96mm、上唇が1.26mm多く後退しました。[3] 口が出ていた方にはこの差が口元の改善につながりますが、口が出ていない方には必要のない変化です。
- 非抜歯でよい場合 — 足りないスペースを非抜歯でつくることができ、口元をさらに下げる必要がなければ、抜歯をしなくてもそろった笑顔をつくれます。下の2つの症例がそのような例です。下げる必要のない口元で抜歯をすると、唇が下がりすぎて見えることがあります。
八重歯をラミネートベニアで隠してはいけませんか?
できなくはありませんが、前に出た八重歯を動かさず、ラミネートベニアだけで整って見せようとすると、歯の位置と目標とする形によっては削る量が増える可能性が高くなります。ラミネートベニアは、歯の表面に薄いセラミックを貼る治療です。八重歯のように前に出ている歯をそのままにして、隣の歯と同じ列に見せるには、出ている分だけ歯を削る必要があることが多くあります。反対に、内側に入っている歯は厚く覆う必要があるため、大きさや比率が不自然になりやすくなります。
- 先に歯並びを整えれば — ラミネートベニアがまったく必要なくなるか、どうしても必要な歯だけを少し削って行えます。
- 色や形も気になるなら — 矯正で歯並びを整えたあと、残った色・形の問題だけを、最小限の削合によるラミネートベニアやレジン(ダイレクトボンディング)で仕上げる順番を考えます。
次の2つの症例は、どちらも最初はラミネートベニアで八重歯を解決しようと来院されましたが、先に歯並びを整える方法を選びました。ラミネートベニアでできる範囲は「歯を削らない? 最小限だけ削る? 韓国のラミネートベニア ガイド」でご説明しています。
症例1 — 抜歯の代わりに部分矯正、斑点は最小限の削合によるラミネートベニアで
笑ったときに見える前歯の中心線(正中線)が整い、八重歯のないそろった笑顔になりました。抜歯をせずに前歯の部分矯正で並べたあと、中央の前歯の斑点だけを最小限の削合によるラミネートベニアで整えた症例です。
実際の症例 · 上の八重歯 · MTA装置による部分矯正(IPR)+中央の前歯に最小限の削合によるラミネートベニア


笑ったときの様子です。ずれていた前歯の中心線(正中線)を整えました。お一人の結果であり、結果には個人差があります。
口の中の写真 · 治療の経過





写真を横にスライドすると、日付順の経過をご覧いただけます。お一人の治療の経過であり、結果には個人差があります。
- 最初に来院されたときのお悩み — 矯正をするには抜歯が必要だと言われ、矯正の代わりにラミネートベニアで八重歯を隠そうと来院されました。
- 患者さんを拝見して考えたこと — この患者さんは、八重歯をそのままにしてラミネートベニアで並びを整えると、削る量が大きくなる状態でした。一方で、足りないスペースはIPRでつくれる範囲でした。笑ったときに前歯の中心線が片側に寄って見え、中央の前歯には矯正前から白い斑点がありました。
- 一緒に検討した方法と、選んだ理由 — ラミネートベニアだけで治す方法、抜歯矯正、抜歯をしない部分矯正を並べてご説明しました。歯を削る量を少なくし、歯を残す方向で、抜歯をせずにIPRでスペースをつくる部分矯正を先に行い、斑点は矯正後に別に治療することにしました。
- 治療の経過 — 見た目を考えて、目立ちにくい装置であるミニチューブ(MTA装置:韓国でよく使われる、部分矯正用の小さなチューブ型の固定式装置)を前歯数本にだけつけて並べました。歯列は広げておらず、矯正期間は7か月でした。装置を外したあとに残った中央の前歯の斑点は、最小限の削合によるラミネートベニアで仕上げました。
- 変わった点と、残った課題 — 前歯の中心線が整い、八重歯のないそろった笑顔になりました。ラミネートベニアは、斑点があった中央の前歯にだけ、少し削って行いました。並べた歯が再びずれないよう、保定装置(リテーナー)が必要です。
最小限の削合によるラミネートベニアについては、ラミネートベニア ガイドでご説明しています。
症例2 — ラミネートベニアの代わりにマウスピース矯正とIPR
前歯の中心線が整い、八重歯と前歯の間のすき間もあわせて整って、笑ったときにそろった笑顔になりました。ラミネートベニアを使わずに、マウスピース矯正とIPRだけで進めた症例です。
実際の症例 · 上の八重歯 · マウスピース矯正(インビザライン)+IPR · ブラックトライアングルの改善


笑ったときの様子です。ずれていた前歯の中心線(正中線)を整えました。お一人の結果であり、結果には個人差があります。
口の中の写真 · マウスピース矯正(インビザライン)+IPR


お一人の治療結果です。結果には個人差があります。
- 最初に来院されたときのお悩み — ラミネートベニアで八重歯をそろえようと来院されました。
- 患者さんを拝見して考えたこと — この患者さんも、八重歯をそのままにしてラミネートベニアで並びを整えると、削る量が大きくなる状態でした。IPRを併用すれば抜歯をせずに並べられる範囲で、笑ったときに前歯の中心線がずれて見え、中央の前歯の間には黒い三角形のすき間(ブラックトライアングル)が見えました。
- 一緒に検討した方法と、選んだ理由 — IPRは、スペースをつくると同時に、歯と歯が接する面を広げてブラックトライアングルを小さくするためにも使われます。そこで抜歯をせずに、マウスピース矯正とIPRで、八重歯と前歯の間のすき間をあわせて整えることにしました。
- 治療の経過 — 見た目を考えて、目立ちにくい透明なマウスピースによる矯正、インビザラインで進めました。この方も歯列は広げていません。マウスピースを1日にどのくらいつける必要があるかは、「インビザラインは1日何時間つける?痛みはいつまで?」でご説明しています。矯正前の写真(2025.07.23)から矯正後の写真(2025.12.05)まで、約4か月半かかりました。
- 変わった点と、残った課題 — 前歯の中心線が整い、八重歯のないそろった笑顔になり、前歯の間のすき間も小さくなりました。ラミネートベニアは行っていません。ブラックトライアングルは歯ぐきと歯の形によって小さくなる程度が異なり、並べた歯には保定装置が必要です。
IPRでブラックトライアングルを小さくするしくみは、「矯正後のブラックトライアングル、なぜできて、どう減らせますか?」でご説明しています。
まとめ — 相談で確認すること
- 八重歯は犬歯1本ではなく、歯列全体のスペース不足からできます
- 抜歯をしなくてすむかどうかは、足りないスペースが何mmかと口元をもっと下げる必要があるかで決めます
- 非抜歯なら、スペースをIPR、奥歯の後方移動、歯列の拡大のどの方法で、どれだけずつつくるかを確認してください
- 歯列の拡大は上あごの幅が下あごより狭い場合にだけ、歯を支える骨の中でだけ使えます
- 八重歯を並べないままラミネートベニアで隠すと、歯の位置と目標とする形によっては削る量が増えることがあります。先に歯並びを整えれば、ラミネートベニアが不要になるか、削る量を少なくできます
- 歯の色のMTA装置やマウスピース矯正のように、目立ちにくい装置でも進められます
- 日本から通う場合、来院は通常2〜3か月ごとです。来院の間に気になることがあれば、写真をLINEで送ってご相談いただけます
参考文献
- Johnson DK, Smith RJ. Smile esthetics after orthodontic treatment with and without extraction of four first premolars. Am J Orthod Dentofacial Orthop. 1995;108(2):162-167.(PMID 7625391;小臼歯の抜歯と笑顔の美しさの間に、予測できる関係はない)
- Moore T, Southard KA, Casko JS, Qian F, Southard TE. Buccal corridors and smile esthetics. Am J Orthod Dentofacial Orthop. 2005;127(2):208-213.(PMID 15750540;バッカルコリドーが小さい笑顔が、男女ともに好まれた)
- Konstantonis D, Vasileiou D, Papageorgiou SN, Eliades T. Soft tissue changes following extraction vs. nonextraction orthodontic fixed appliance treatment: a systematic review and meta-analysis. Eur J Oral Sci. 2018;126(3):167-179.(抜歯矯正では非抜歯より、下唇が1.96mm、上唇が1.26mm多く後退)
このページは一般的な教育目的の情報であり、個別の診断に代わるものではありません。実際の症例はお一人の結果であり、治療の方法・期間・結果には個人差があります。抜歯をするかどうかとスペースのつくり方は、精密検査のうえで矯正歯科専門医とご相談のうえ決めてください。