口ゴボ · 抜歯 · 非抜歯
口ゴボの矯正、
抜歯は必要ですか?


このページの内容
「どうしても抜歯しないといけませんか?」
「抜歯しないと、かえって口が出てしまうのではありませんか?」
抜歯か非抜歯かを分ける基準は、好みや歯科医院の方針ではなく、必要な唇の後退量と、確保できるスペースの大きさです。この2つの数字を比べれば、答えはおおむね決まります。ですから相談で確認すべきなのは「抜歯をするかどうか」ではなく、「自分にはどれだけのスペースが必要で、その方法でそれだけのスペースが得られるのか」です。
ひと目でわかる — 口ゴボの矯正の基準と、方法ごとの数値
| 項目 | 文献上の数値 | 確認する点 |
|---|---|---|
| 目標とする唇の位置(Eラインに対して) | 欧米人の基準 上唇−4mm・下唇−2mm [1] / 審美的な韓国人女性 上唇−2.08mm・下唇−0.04mm [2] | 欧米人の基準をそのまま当てはめると、唇を下げすぎるおそれ |
| 抜歯矯正(非抜歯との比較) | 下唇1.96mm・上唇1.26mm多く後退、鼻唇角4.21°増加 [4] | 後退量の合計ではなく、非抜歯との差 |
| 矯正用アンカースクリューによる後方移動 | 上顎大臼歯 平均1.8〜6.4mm [6] | 上顎結節・下顎枝前縁が物理的な限界 |
| マウスピース矯正での順次後方移動 | 上顎第1大臼歯 歯冠 約2.00〜2.07mm、歯根1.13mm [7] | 歯冠の遠心傾斜を伴う |
| 歯の間を削る処置(IPR) | 1面あたり0.2〜0.3mm | スペースをつくるための補助的な方法 |
| 治療期間 | 抜歯 2年以上 / 非抜歯 1年6か月〜2年 | 移動量が大きく、年齢が高いほど長くなる |
本文の各項目の要約です。数値は文献上の平均・範囲で、個人の結果はセファロ(横顔のレントゲン)の分析と精密検査で判断します。[ ]は下の参考文献の番号です。
1. まず、口ゴボかどうかはどう判断しますか?
横顔で鼻先とあご先を結ぶ線(Eライン)に対して、唇がどの位置にあるかで判断します。「口が出て見える」という印象だけでは診断しません。
ここで大切なことがあります。韓国人と欧米人では、基準が異なります。
- 欧米人の基準(Ricketts) — 上唇がEラインより約4mm、下唇が約2mm内側にあるとき、調和がとれているとされます。[1]
- 韓国人の基準 — 審美的にバランスのとれた韓国人女性の横顔を分析した研究では、上唇−2.08mm、下唇−0.04mmでした。[2] 欧米人の基準より、唇が前寄りに位置します。
実際に、韓国人とヨーロッパ系アメリカ人の軟組織の横顔を比較した研究でも、韓国人のグループは鼻の傾斜角が小さく、唇の突出度が高く、あご先の突出は目立ちにくいと報告されています。[3]
2. 突出の原因が歯なのか、あごの骨なのかを見分ける必要があります
同じ「口ゴボ」でも、原因によって矯正で解決できる範囲が異なります。
- 歯性の突出 — 上下のあごの骨の位置は正常で、前歯が前に傾いている場合です。矯正だけでも、改善できる幅が比較的大きいタイプです。
- 骨格性の突出 — あごの骨そのものが前に出ている場合です。矯正で一部は改善しますが、程度が強い場合は外科的な方法もあわせて検討します。
- 相対的な突出(下あごの後退) — 下あごが後ろに下がっているために、相対的に口が出て見える場合です。このときは前歯を後ろに下げるだけでは限界があり、あご先の位置もあわせて考える必要があります。
3つ目のタイプで前歯だけを下げ続けると、横顔がよりのっぺりした印象になることがあります。原因の診断が先に必要な理由です。
3. 抜歯矯正では、どのくらい下がりますか?
抜歯したグループは、抜歯しなかったグループに比べて、下唇が平均1.96mm、上唇が平均1.26mm多く後退します。
複数の研究をまとめたシステマティックレビューとメタ分析の結果です。具体的には次のとおりです。[4]
- 下唇の後退:平均差1.96mm
- 上唇の後退:平均差1.26mm
- 鼻唇角の増加:平均差4.21°
- 横顔(軟組織)の凸度の減少:平均差1.24°
成人の患者さんだけを対象にした別のメタ分析でも、抜歯したグループで鼻唇角、上唇の厚み、Eラインに対する上唇と下唇の位置が有意に変化し、横顔が平坦になる傾向が確認されました。[5]
ここで誤解されやすい点があります。この数値は抜歯矯正による改善量の合計ではなく、非抜歯と比べたときの「差」です。非抜歯の矯正でもそれ自体で唇を後退させることができ、抜歯はそこからさらに1〜2mmを確保する選択だと理解するほうが正確です。
4. 非抜歯では、どこまでできますか?
軽度から中等度の突出は改善が可能ですが、解剖学的な限界があります。
非抜歯の矯正でスペースをつくる方法は3つあります。
- 歯の間を削る処置(IPR) — 歯の側面を1面あたり0.2〜0.3mm整えて、スペースをつくります。
- 歯列の後方移動 — 矯正用アンカースクリューを固定源にして、歯列全体を後ろに動かします。
- 歯列弓の拡大 — 狭い歯列弓を広げて、歯を並べるスペースをつくります。適応となる場合にのみ用います。
このうち、口ゴボの改善の中心になるのは後方移動です。矯正用アンカースクリューを使った上顎大臼歯の後方移動を扱ったシステマティックレビューでは、後方移動量は平均1.8〜6.4mmと報告され、大臼歯の遠心傾斜は1.6〜11.3°、前歯の後退は0.1〜2.7mmの範囲でした。[6]
ただし、後方移動には物理的な限界があります。上あごでは上顎結節(maxillary tuberosity)、下あごでは矢状面で見た下顎枝前縁(anterior border of the ramus)が限界になります。骨のないところへ歯を動かすことはできないからです。
5. マウスピース矯正で後方移動はできますか?
可能ですが、動かせる量には差があります。順次後方移動のプロトコルを用いたマウスピース矯正を分析したメタ分析では、上顎第1大臼歯は歯冠で約2.00〜2.07mm後方に移動しました。歯根は1.13mmと移動量がより小さく、歯冠の遠心傾斜(歯冠が後ろへ傾くこと)を伴うことが示されました。[7]
また、後方移動の過程で前歯が0.39mm前方に押される固定の喪失(アンカーロス)が見られましたが、治療終了の時点では回復していました。[7] つまり、マウスピース矯正でも後方移動は可能ですが、矯正用アンカースクリューを用いた場合(1.8〜6.4mm)より移動量は小さい傾向です。
そのため、装置の種類より、必要な移動量が先です。移動量が大きければ矯正用アンカースクリューの併用や抜歯を検討し、小さければ装置の選択肢が広がります。
6. 抜歯すると、ほうれい線が深くなったり鼻の下が長くなったりしますか?
相談で特によく聞かれるご心配です。抜歯矯正では鼻唇角が平均4.21°増加し、唇が後ろに下がって、横顔の凸度が小さくなります。[4][5] ただし同じメタ分析では、抜歯したグループの横顔の魅力度の評価は、むしろ改善していました。[4] 問題は変化が起こるかどうかではなく、どの程度起こすかであり、これは計画の段階で調整します。
ほうれい線は、年齢と後退量によって結果が変わります。実際の移動量と年齢別の研究、40代・60代の症例については、診察の際に詳しくご説明します。
7. 治療期間と歯ぐきの突出
治療期間は、抜歯矯正で2年以上、非抜歯で1年6か月〜2年程度を目安としますが、必要な移動量と年齢によって変わります。移動量が大きいほど、年齢が高いほど、期間が長くなる傾向があります。
歯ぐきの突出については、歯の位置が原因であれば、矯正で改善が可能です。前に傾いた歯を後ろに動かすと、その部分の歯を支える骨(歯槽骨)も一緒につくり変えられる(リモデリング)ためです。前歯を後ろ上方に動かす必要がある場合は、矯正用アンカースクリューが必要です。笑ったときに歯ぐきが多く見える場合(ガミースマイル)の原因と治療については、診察の際に詳しくご説明します。
まとめ — 相談で確認すること
「抜歯をするかどうか」よりも、次の4つを確認するほうが実際的です。
- ご自身の突出の原因が歯性か骨格性か、あるいは相対的な突出か
- 目標とする唇の位置がどの基準にもとづいているか
- 必要な後退量が何mmで、提案された方法でそれだけ確保できるか
- 非抜歯ならスペースをどうつくる計画か(後方移動・IPR・拡大)
この判断は、横顔のレントゲン写真(セファロ、cephalogram)の分析と、歯の模型・顔貌の評価を含む精密検査を経て、はじめて可能になります。
参考文献
- Ricketts RM. Esthetic plane (E-line) analysis. 成人の基準 上唇−4mm、下唇−2mm。
- Soft tissue cephalometric analysis of aesthetic Korean female. Korean J Orthod.(大韓歯科矯正学会誌。審美的な韓国人女性18人の分析:上唇−2.08mm、下唇−0.04mm)
- Hwang HS, Kim WS, McNamara JA Jr. Ethnic differences in the soft tissue profile of Korean and European-American adults with normal occlusions and well-balanced faces. Angle Orthod. 2002;72(1):72-80.
- Konstantonis D, Vasileiou D, Papageorgiou SN, Eliades T. Soft tissue changes following extraction vs. nonextraction orthodontic fixed appliance treatment: a systematic review and meta-analysis. Eur J Oral Sci. 2018;126(3):167-179.
- Changes in soft tissue profile after orthodontic treatment with and without extraction: a systematic review and meta-analysis. J Evid Based Dent Pract. 2018;18(3):185-199.
- Maxillary molar distalization with miniscrew-supported appliances in Class II malocclusion: a systematic review.(大臼歯の後方移動量1.8〜6.4mm)
- Molar distalization by clear aligners with sequential distalization protocol: a systematic review and meta-analysis.(上顎第1大臼歯 歯冠 約2mmの後方移動)
このページは一般的な情報であり、個別の診断に代わるものではありません。治療の適否・期間・回数は、検査のうえで一人ひとりの状態に合わせてご案内します。